GoAngelの二つの意味
DANベンチャーキャピタルが運営する株式投資型クラウドファンディング。2017年9月にスタートした専用WEBサイトは、GoAngel(ゴ―エンジェル)と命名されています。
米国で、Angel(エンジェル)と言えば、成長意欲ある中小企業に積極的な投資活動を行い、成長を支援している個人富裕層を指します。
米国ベンチャーリサーチセンターの調べでは全米のAngelの数は25万人余り。
その多くは自らの事業を売却してリタイアした成功経営者です。
Angelは潤沢な資金を有望と思う企業に投資するだけでなく、自らの経験を生かして、経営面のアドバイスをするなど、資金+ナレッジで、成長を支援するわけです。
日本にはこのような真のAngelが殆どいないと言われています。
そこでAngel的な役割が期待されるのが、会社の周りにいる身近なAngelです。
GoAngelはGo+Angelであるとともに「ご縁」+ジェル(集う)の意味もあります。
お客様、お取引先、社員、経営者の友人、知人、親戚など、会社と何らかの「ご縁」のある方にAngel株主になっていただく。
「拡大縁故募集」と呼ばれるこのアプローチは、米国ではFamily & Friends Financingと呼ばれ、600億ドルの市場規模であることは、前回のブログでも紹介しました。
Family & Friendsのマーケティング
このアプローチ。いわゆるマーケティング理論からも極めて合理的です。
豊富な品揃えの金融商品が広がる日本ですが、元本保証で確定利回りの金融商品が圧倒的な人気。価格変動リスクの大きい個別銘柄の株式にアクティブに投資をしている個人投資家は100万人~300万人程度と推定されています。
それが図では水色の円で示した「株」に関心を持つ方のマーケットです。
全人口の3%。決して大きなマーケットとは言えません。
しかも、日本の上場会社は3,650社。
個人投資家にとって、3,650銘柄もの選択肢があると言えます。
これに、信用力も低く流動性も低い中小企業のA社株式を品揃えとして加えても、普通の個人投資家の選択肢には入らないと考えるのが常識的でしょう。
それでは、誰がA社の株主になっていただけるのでしょう?
対象とすべきは「株」に関心をもつマーケットではなく、「A社」に関心を持つマーケット
例えばA社のお客様やお取引先、経営者の友人知人など、多くはA社と「ご縁」のある身近な人です。
そういう人は、証券会社の周りにではなく、A社の周りに集まっています。
図では、A社の周りのピンク色の円で示したマーケット。
これが米国でFamily & Friendsと呼ばれているマーケットです。
未上場株式投資でキャピタルゲインを狙う個人投資家は?
ただし勿論、別のアプローチもあります。
「株」にも関心あり「A社」にも関心あるマーケット。
図では斜線で示した部分です。
主にA社が成長して上場することを前提に、その売却益に期待する個人投資家のニーズに応えるマーケットです。
私がディー・ブレイン証券で支援した中小企業は141社。このうちこれまでに上場した会社は上場会社との経営統合を含めて19社あります。
上場できる確率は10%強。
平均的なベンチャーキャピタルの投資構造とほぼ等しく、分散投資をすれば、金融商品としての投資も可能でしょう。
ただし、問題はそのマーケットです。
300万人しかいない個別株志向の投資家の中で、よりハイリスクハイリターンの未上場株式への投資を志向する人のマーケットの規模には限界があるとも考えられます。
未上場株式投資はEXITまで時間がかかり、資金は眠ってしまいます。
企業数が増加していくと、投資家を増やし続けない限り、どこかで限界が来てしまうのです。
その点、企業の周りに多かれ少なかれ必ず存在するのが、Family & Friends。
図のC社とD社のようにFamily & Friendsのマーケットのサイズは企業によって異なりますが、企業の数が増えても、それに応じて投資家が増え続けます。
Family & Friendsに株主を広げるGoAngelの使命
GoAngelは、見知らぬ個人投資家から資金を集めてくる仕組みではありません。
Family & Friendsが投資しやすくなる環境を提供している仕組みと言っても良いでしょう。
DANベンチャーキャピタルが専門性を発揮して会社の審査を行い、必要な情報をインターネットというツールを使ってFamily & Friendsの皆さんに提供する。
それによって、Family & Friendsの皆さんが気持ちよく株主となっていただければ、この募集は成功します。中小企業経営者にとっても、むしろ顔の見える株主に支えていただけるのは有難いことと言えます。
現在、日本で株式発行により資金調達をしている中小企業は主にベンチャーキャピタルを対象として年間1,000社ほど。限られた尖った一部のベンチャー企業だけのものだったとも言えましょう。GoAngelの目的は、それを広く日本経済を支えている技術力やサービス力に優れた意欲ある「普通の」中小企業に広げること。
株式会社でありながら、使われてこなかった株式発行による資金調達。
目標は、全国200万社の株式会社の10%、20万社の成長志向の中小企業のためのインフラづくり。金融機関からの融資と同様、普遍的な資金調達の社会的な仕組みとして発展させることなのです。
次回は、いよいよ、GoAgel登録企業がどのようにFamily & Friendsのエンジェル株主を集めているか、実例を眺めて参ります。
(つづく)
DAN ベンチャーキャピタル 株式会社
代表取締役 出縄 良人(公認会計士)
(プロフィール)