独立公認会計士を組織化して、中小企業向け経営コンサルティングの事業に勤しんでいた株式会社ディー・ブレイン。1996年6月、私は公認会計士協会からの講演依頼で、沖縄に向かう飛行機の中にいました。
耳に入ってきたのは、隣に座っていたビジネスマン二人の会話です。
「インターネットで投資家から資金を調達した米国の会社知ってる?」
「ああ。地ビール会社でしょう。インターネットは凄いね・・・」
その会社のことは私も新聞で読んで知っていました。
スプリング・ストリート社。
世界で初めてインターネットを使ったファイナンスに成功した会社です。非上場会社でありながら、ネット上に上場会社と同様の目論見書を開示。財務情報にはCPAが監査をつけています。米国SEC(証券取引委員会)からノンアクションレターを取り付け、証券会社を通さずに株式の直接募集を行ったのです。
(なんで、日本ではこれができないんだろう?)
会話を聞いて頭によぎったのはそんな疑問でした。
(いや、できないんではない。やろうと思う人がいないだけだ。)
そう結論付けた私は、早速、WEBサイトづくりに取り掛かります。
奇しくも金融機関は「貸し渋り」の時代。資金を求める中小企業のクライアントがディー・ブレインには集まっていました。
「インターネットベンチャー投資マート」と名付けたそのWEBサイトは1996年9月にオープン。中小企業が事業計画や財務情報を開示して株主を募集するサイトです。財務情報には仲間の会計士が監査をつけて客観性を高めます。まさに今日の株式型クラウドファンディングの原型とも言えましょう。この記事を日経新聞がベンチャー欄のトップに掲載。10月には日経ビジネスの他、東洋経済、ダイヤモンドなど多くのビジネス誌に紹介され、大反響となりました。
ところが良い話ばかりではありません。ジュリストという法律家向け専門誌が「インターネットファイナンス」をテーマに論文を掲載。事例紹介の中でディー・ブレインを取り上げます。
「証券会社でもないのに株の募集をしているこの会社は証券取引法違反・・・」
その1週間後、大蔵省(現:金融庁)から電話がかかって来ました。
「随分、変わったことを始めたようですね。ちょと説明に来てくれますか。」
口調は丁寧ですが、出頭命令のようなもの。
数日後、私は不安な気持ちで、霞ヶ関の大蔵省を訪ねます。通された部屋では、5人の担当者が待ち構えていました。
そこでの話は、私の想像を遥かに超えるものだったのです。
(つづく)
DAN ベンチャーキャピタル 株式会社
代表取締役 出縄 良人(公認会計士)
(プロフィール)