- リアルタイムに現地法人と財務情報を共有するクラウド会計システム
世界各国に進出して事業を展開するグローバル企業にとって英語が公用語。英語でシステムを構築すれば、何でも通用する思いきや、そうでもありません。タイ、ベトナム、韓国、ドイツなど現地の税務申告や役所に提出する会計報告などは現地語が基本なのです。
これらの国の現地法人の財務担当者にとって頭が痛いのが、日本への月次の報告書です。会計システムから出力される現地語の月次決算書など日本語に翻訳。数値はexcelなどに落として、日本円に換算した上、報告書にまとめなければなりません。日本の本社では、子会社の作業が完了するまで月次の連結決算が完了しません。
このような現地法人の業務改善を図るシステムを提供するのが、GoAngelの第1号案件として2,000万円の資本調達に成功したマルチブックです。
同社では、従来、日本の大企業の現地法人向けにSAPをプラットフォームとする大規模なERPシステム(経営基幹システム)を構築して実績を上げてきました。その経験とノウハウを生かして海外進出する中堅中小企業向けに開発したのが、クラウド型のマルチ言語ERPシステム “multibook” です。例えば現地でタイ語で入力すると、データは即座に日本語に変換。日本円に換算して日本の本社でもリアルタイムで情報を取り込めます。
同様のERPシステム導入に1億円単位のコストがかかるSAPに対して、multibookは、3IDあたり最低月額3万円から導入できる手軽さで、グローバルな中小企業に広がりつつあります。
GoAngel第1号の長い道のり
マルチブックの村山社長に初めてお会いしたのは、2014年。外国人留学生のインターンシップのイベント。そこでご相談は、将来の上場に向けて社内体制整備のためのコンサルティングをして欲しいということでした。
コンサルをスタートした頃、丁度、DANベンチャーキャピタルで準備を始めたのが、株式投資型クラウドファンディングの専業業者、第一種少額電子募集取扱業者の登録準備です。金融庁の要請で登録準備には具体的な案件が必要とのこと。そこで、村山社長にご相談。2016年2月に関東財務局に初めて提出した登録申請書類に、GoAngelの候補案件として記載させていだくことになりました。
当初、半年くらいで登録できると思っていた、申請準備のための関東財務局との協議は業務の方法を巡って難航。登録できたのは翌年2017年7月31日。日本証券業協会への加入を経て、GoAngelをオープンしたのは9月5日。募集を開始できたのは13日です。1年以上もお待たせしてしまいましたが、辛抱強く待っていただきました。当社がGoAngelをスタートできたのは、村山社長のお陰です。
会社を支えるSEみんなの会社
マルチブックを支えているのは、社内・社外で専門業務に従事しているシステムエンジニア(SE)の皆さん。さらに同業のIT関連の経営者仲間。そして、継続的にお付き合いをされている多くの優良クライアントです。GoAngelの募集開始にあたっては、村山社長からメールでこれらFamily & Friendsの700名ほどにGoAngel登録と株主募集開始のメッセージが送られています。
マルチブックの新株式の申込みコースは25万円と50万円の選択。応募された50名ほどのうち、40名近くは、株主募集のご案内を行なったSEを中心とする仲間です。一方、話題のFintech関連企業ということもあるためか、将来に期待する一般の個人投資家も10名ほどが応募されました。
上場の予行演習。GoAngelでのガバナンス体制
「上場企業になるための予行演習として最適」と語る村山社長。GoAngelでは取締役会及び監査役の設置のほか、株主名簿管理人の設置も義務づけ。株主総会の招集通知も上場企業並みです。GoAngel登録時に審査資料と開示用資料として作成した「新株式発行のための会社概要書」は、「上場申請のための有価証券報告書 (Iの部)」や上場企業が提出する「有価証券届出書」とほぼ同じ書式です。
そして迎えた株主総会。6月29日のその日は、東京で観測史上最も早い梅雨明けとなり、強い日差しの快晴です。少し緊張した面持ちの村山社長。株主を前に堂々とした、まさに上場企業並みの株主総会でした。
終了後に会場を替えて開催した株主懇談会では、各部門の担当役員と責任者から、事業の状況と計画を発表。前回紹介したLCAの総会の良さとはまた異なる、誠実・実直な会社のキャラクターが現れた素晴らしい株主総会でした。
(つづく)
DAN ベンチャーキャピタル 株式会社
代表取締役 出縄 良人(公認会計士)
(プロフィール)